ふしぎな生き物

愛犬の名前をもらった深海生物「イスクラのきらめきワーム」、新種ウロコムシの不思議な暮らし方

はじめに

夕食のあと、5歳の娘と図鑑を眺めていたら「ゴカイ」のページに差しかかりました。「これミミズ?」と聞かれて「海にいるミミズの仲間だよ」と答えたものの、地味な印象しか持っていませんでした。ところがちょうど最近、深海で見つかったゴカイの仲間の新種が「きらきら光る」という理由で話題になり、しかも名前の由来が「発見者の飼い犬」だと知って、これは子どもに話したくなるニュースだと思い、詳しく調べてみることにしました。

どんな生き物?

鮮やかな黄色とオレンジ色の丸い鱗(うろこ)が体の両側に並んだウロコムシの仲間。頭部には黒い点と触角が見える
ウロコムシの仲間(コモンサルウロコムシ属 Arctonoe pulchra)。※新種「イスクラのきらめきワーム」そのものの写真ではなく、体の両側に丸い鱗(うろこ)が並ぶウロコムシ科の近縁種です(写真: Alex Heyman / CC0, via Wikimedia Commons)

見つかったのは、学名「Photinopolynoe iskrae(フォティノポリノエ・イスクラエ)」という新種の生き物です。分類上は環形動物、いわゆる「ゴカイの仲間(多毛綱)」で、その中でも背中に鱗(うろこ)状の板(専門的には「鱗片(りんぺん)」と呼びます)が並ぶ「ウロコムシ科(Polynoidae)」に属します。英語の愛称は「Iskra’s glitter worm(イスクラのきらめきワーム)」。属名の「Photinopolynoe」には「光る」という意味が込められており、実際にこの鱗片が光を受けてきらきらと輝いて見えることが名前の由来になっています。

上の写真は新種そのものではなく、近縁のウロコムシ科の仲間です。丸い鱗片が体の両側にびっしりと並んでいる様子が分かると思いますが、新種のイスクラのきらめきワームも同じように鱗片を持ち、それが虹色に輝いて見えるのが特徴だそうです。

この仲間は「Lepidonotopodini(レピドノトポディニ)」というグループに含まれ、深海の特殊な環境、具体的には熱水噴出孔やメタン湧水、そして海底に沈んだ鯨や木材のまわりだけに暮らす、変わり者ぞろいのグループです。

発見のストーリー

見つかったのはアメリカ・カリフォルニア沖の太平洋。基準となる標本(ホロタイプ)が採集されたのは、サンディエゴ沖にある「Rosebud(ローズバッド)」と名付けられた鯨骨生物群集(沈んだクジラの死骸にできる生態系)で、水深は845mでした。無人探査機(ROV)を使った深海調査によって発見されたと報じられています。

新種として正式に記載されたのは2025年11月、学術誌「Marine Biodiversity」に掲載された論文でのことです。研究を主導したのは、米カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋研究所の大学院生Avery Hiley氏とKiirah Green氏、そしてGreg Rouse教授。この論文では、イスクラのきらめきワームを含め、深海の化学合成生態系(太陽の光ではなく化学物質をエネルギー源にする生態系)から見つかった7種ものウロコムシ類の新種がまとめて記載されました。2026年3月には、世界海洋生物登録簿(WoRMS)が選ぶ「2025年の注目すべき新種10選」にも選ばれています。

生態のふしぎ

イスクラのきらめきワームが暮らす3つの化学合成生態系(鯨骨生物群集・沈木生物群集・メタン湧水)の図解。近縁種の多くは1つの環境にしか住まないが、この種はどこにでも住める
イスクラのきらめきワームが見つかった3つの生息環境

この生き物の一番おもしろいところは、見た目のきらめきだけではありません。同じLepidonotopodiniのグループに属す近縁種の多くは、「熱水噴出孔だけ」「メタン湧水だけ」というように、決まった1つの環境にしか住まない専門家(スペシャリスト)です。ところがイスクラのきらめきワームは、鯨骨生物群集(沈んだクジラ)・沈木生物群集(沈んだ木材)・メタン湧水域という、3つの異なる環境すべてで見つかっています。

これらの環境に共通するのは、太陽の光が届かない深海で、バクテリアが硫化水素やメタンといった化学物質を使ってエネルギーを作り出す「化学合成」という仕組みで生態系が成り立っている点です。クジラの骨に含まれる脂肪分を分解する菌、沈んだ木を分解する菌、地中から染み出るメタンを使う菌と、エネルギー源はそれぞれ違いますが、イスクラのきらめきワームはそのどれにも適応できてしまう、いわば「深海のオールラウンダー」というわけです。

深海の砂泥質の海底を這う紫がかった青色のウロコムシの仲間。頭部から長い触角が伸びている
深海の海底で見られるウロコムシの仲間。※新種そのものの写真ではなく、近縁のウロコムシ科(生息地はアメリカ東海岸沖の海底谷)です(写真: NOAA Office of Ocean Exploration and Research / パブリックドメイン, via Wikimedia Commons)

普段は水族館で見るサンゴ礁の魚たちのように「1つの決まった住みかに適応した生き物」を思い浮かべがちですが、深海には「どこでも生きられる」という別の生き残り戦略を選んだ生き物もいる、というのは子どもに話すとおもしろがってもらえそうなポイントでした。

豆知識・どこで見られる?

イスクラのきらめきワームが話題になったもう1つの理由が、名前の決め方です。この種の名前は、深海の要素を使って地上の環境問題を解決するアイデアを競う「Inspired by the Deep」というコンテストで優勝した、ポーランド・ワルシャワのアメリカンスクールに通う高校生Maja Young(マヤ・ヤング)さんが名付けました。彼女が選んだのが「Iskra(イスクラ)」という名前で、これはロシア語やポーランド語などスラブ系の言語で「火花」を意味する言葉。彼女が子どものころに飼っていた愛犬の名前にちなんでいるそうです。研究者だけでなく、コンテストに参加した高校生が新種の名前を決められるというのも、子どもに「生き物の名前ってどうやって決まるの?」を説明するときの、いいきっかけになりそうです。

実物を見られる水族館や博物館は、2026年7月時点では見当たりませんでした。ただし新江ノ島水族館の「深海Ⅰ〜JAMSTECとの共同研究〜」の展示コーナーでは、鯨骨生物群集・メタン湧水域(湧水系)・熱水噴出孔という3つの化学合成生態系を再現した水槽を見ることができます。イスクラのきらめきワームそのものの展示ではありませんが、この生き物が暮らす環境がどんな場所なのか、家族で実際にイメージをつかむにはぴったりの展示だと思います。

まとめ

  • 新種のウロコムシ「Photinopolynoe iskrae(イスクラのきらめきワーム)」は、カリフォルニア沖・水深845mの鯨骨生物群集で発見された
  • 分類はゴカイの仲間(多毛綱)のウロコムシ科。虹色に輝く鱗片(りんぺん)を持つのが特徴
  • 近縁種の多くが1つの環境だけに特化するのに対し、鯨骨・沈木・メタン湧水という3つの異なる化学合成生態系すべてで見つかっている珍しい種
  • 記載論文は2025年11月、学術誌「Marine Biodiversity」に掲載された
  • 名前は「Inspired by the Deep」コンテストで優勝した高校生が、愛犬にちなんで名付けた

普段は地味に見えるゴカイの仲間にも、光を受けてきらめく鱗を持つ種がいて、しかもその名前を高校生が自分の愛犬にちなんで選んだと知ると、子どもたちも「自分だったらどんな名前をつけるかな」と話が弾みました。深海の生き物は、見た目だけでなく暮らし方も人間の想像を超えていておもしろいです。今度は水族館の深海コーナーで、実物のウロコムシを探してみようと思います。