はじめに
「もののけ姫」を子どもと一緒に見ていたら、8歳の息子が「この森、本当にあるの?」と聞いてきました。苔むした岩、うねる木の根、霧に包まれた深い緑。調べてみると、あのジブリの森のモデルになったと言われる場所が、鹿児島県の屋久島に実在すると知りました。
日本初の世界自然遺産でもある屋久島。写真で見る森は幻想的でしたが、「子連れで行けるのか」「あの縄文杉まで本当に歩けるのか」が気になったので、行き方やベストシーズンとあわせて調べてみることにしました。
屋久島ってどんな場所?
屋久島は、鹿児島県の南、九州本土から南へ約60kmの海上に浮かぶ円形の島です。周囲は約130km、面積は約504平方キロメートルで、東京23区よりやや小さいくらいの大きさです。
島の中央には「洋上のアルプス」とも呼ばれる山々がそびえ、最高峰の宮之浦岳は標高1,936m。九州で一番高い山でもあります。海岸からいきなり標高1,900m級の山が立ち上がっているため、標高に応じて亜熱帯から亜高山帯まで植生がガラリと変わるのが屋久島の大きな特徴です。
1993年12月11日、屋久島は白神山地(青森県・秋田県)とともに、日本で初めて世界自然遺産に登録されました。登録されているのは島の全面積の約2割にあたる10,747haで、屋久杉の原生林が広がる中央部から西部にかけてのエリアです。
何がすごいのか
登録理由として挙げられているのは、大きく次のような点です。
- 屋久杉の天然林:樹齢1,000年を超える杉だけを「屋久杉」と呼び、日本固有種であるスギの優れた生育地であること
- 植生の垂直分布:海岸付近の亜熱帯植物から、暖帯・温帯林、さらに山頂付近の亜高山帯植物まで、標高差によって植生がはっきり変わっていく様子が一つの島で見られること
- 原生的な照葉樹林:日本各地で急激に減少している照葉樹林が、まとまった形で残されていること
- 多くの固有種・希少種:屋久島にしかいない植物や、分布の北限・南限にあたる種が数多く自生していること
象徴的な存在が、屋久杉の中でも最大級とされる「縄文杉」です。推定樹齢は諸説あり、2,000年程度という説から7,200年という説まで幅があります。この幅の広さ自体が面白いところで、幹の内部が空洞になっていて年輪を直接数えられないことが、樹齢の特定を難しくしているそうです。いずれにしても、人間の歴史よりずっと長い時間そこに立ち続けてきた木だということは間違いなさそうです。
もうひとつの見どころが、映画「もののけ姫」の着想源の一つとされる「白谷雲水峡」の苔むす森です。岩や倒木にびっしりと苔がむし、光の差し込み方によって緑が何層にも見える風景は、アニメの世界がそのまま現実にあるような不思議さがあります。
さらに屋久島は、アカウミガメの北太平洋最大級の産卵地としても知られています。特に永田浜は日本有数の産卵地で、2005年にはラムサール条約湿地にも登録されました。森だけでなく、海の生き物の視点からも貴重な島だとわかります。
ベストシーズンと見どころ
屋久島は「ひと月に35日雨が降る」と表現されるほど、雨が多い島として知られています。作家・林芙美子が小説「浮雲」の中で使った表現がもとになったと言われています。実際に月に35日はあり得ないにせよ、それくらい雨のイメージが強い土地だということです。
季節ごとの特徴を調べると、次のような傾向がありました。
- 新緑〜初夏(5月・6月):トレッキングのベストシーズンとして紹介されることが多く、緑が鮮やかで比較的過ごしやすい時期
- 梅雨(6月〜7月上旬):雨の日は多いものの、混雑が少ない時期。雨に濡れた苔がいっそう美しく見えるとも言われます
- 夏(7月〜8月):海水浴やシュノーケリングなど海のアクティビティが充実。ただし台風の影響を受けやすい時期でもあります
- 冬(12月〜2月):観光客が少なく静かに過ごせる一方、標高の高い山中では積雪することもあります
森の景色を目当てにするなら新緑の時期、ウミガメの産卵シーズンを狙うなら初夏から夏にかけてが目安になりそうです。
子連れで行くなら
一番気になっていたのが、あの縄文杉までの道のりに子どもを連れて行けるかどうかです。調べてみると、これはかなりの覚悟が必要だとわかりました。
縄文杉トレッキングは片道11km・往復約22km、所要時間は約11時間、標高差は約700mという、日本でも屈指のハードな日帰り登山です。内訳を見るとその本格さがよく分かります。
- 荒川登山口(標高600m)からトロッコ道を8.5km、約3時間
- そこから山道を2.5km、約2時間で縄文杉(標高1,300m)へ
- 帰りも同じ道を戻る
しかも日帰りするには朝5時前後に登山口を出発するのが前提で、屋久杉自然館からシャトルバスに乗り継いで向かうことになります。暗いうちに起きて、11時間歩き、暗くなる前に降りてくる——大人でも相当な行程です。
ツアー会社によって子どもの参加基準は異なるようなので、挑戦を考えるなら事前に体力面を相談する必要がありそうです。ただ正直なところ、5歳の娘には現実的ではないと感じました。8歳の息子でも、まずは低山で1日歩く経験を積んでからでしょうか。
一方で、同じ屋久島の森を体感できるルートとして良さそうなのが「白谷雲水峡」です。標高600〜1,050mにある自然休養林で、コースが複数用意されています。
| コース | 所要時間の目安 |
|---|---|
| 弥生杉コース | 約40分〜1時間 |
| 奉行杉コース(約4km) | 往復約3時間 |
| 太鼓岩往復コース | 約4〜5時間 |
「もののけ姫」のモデル地とされる苔むす森は太鼓岩コースの途中にあり、そこで折り返す形になります。一番短い弥生杉コースなら1時間以内なので、5歳の娘でも十分歩けそうです。
なお調べていて知ったのですが、コース名の由来である弥生杉は2024年8月の台風で折れてしまったそうです。屋久島の自然は今も動いているのだと実感させられる話で、こうした最新状況は屋久島レクリエーションの森 保護管理協議会のサイトで確認できます。
もう一つ気をつけたいのが、屋久島は雨が多く、山道は滑りやすいという点です。台風で杉の巨木が折れるほどの島ですから、天候によってはコースが閉鎖されることもあります。子連れの場合は無理に予定を詰め込まず、天候次第で組み替えられる余裕を持った旅程にするのが良さそうです。
体力面のハードルが低い体験としては、永田浜のウミガメ観察会があります。夜間・早朝の開催なので子どもの就寝時間との調整は必要ですが、歩き回る必要がないぶん、小さな子でも参加しやすそうです(開催期間や参加条件は年によって変わるため、事前にご確認ください)。
費用とアクセス
屋久島空港へ直接乗り入れているのは、大阪(伊丹)発と福岡発の便のみです。いずれもJALグループのJAC(日本エアコミューター)が運航しており、所要時間は伊丹から約1時間40〜50分、福岡から約1時間10分。
東京からは直行便がないため、乗り継ぎが必要です。基本ルートは羽田から鹿児島空港まで約2時間、そこで乗り継いで屋久島空港まで約35〜40分。関西・福岡在住の方に比べると、東京からはひと手間かかることになります。空路のほかに、鹿児島本港から高速船で渡るルートもあります。
費用は、縄文杉のガイドツアーが1人1万円台半ばというのが相場感です。これに航空券・宿泊・レンタカーが加わるため、家族4人で3泊4日となるとまとまった額になります。具体的な金額は時期や航空券の取り方で大きく変わるので、旅行会社の見積もりで確認するのが確実です。ゴールデンウィークや夏休みを外せば、もう少し抑えられる日程もありそうです。
まとめ
- 屋久島は1993年、白神山地とともに日本初の世界自然遺産に登録された
- 屋久杉の原生林、垂直分布する植生、原生的な照葉樹林などが評価されての登録
- 白谷雲水峡は複数コースがあり、一番短い弥生杉コースなら約40分〜1時間。「もののけ姫」の苔むす森は太鼓岩コースの途中
- 縄文杉トレッキングは往復22km・約11時間・標高差700mの本格登山で、子連れには年齢・体力の見極めが必須
- 屋久島空港への直行便は大阪(伊丹)・福岡のみ。東京からは鹿児島空港での乗り継ぎが基本
縄文杉までの道のりは、正直まだ我が家の子どもたちには早いかもしれません。それでも、白谷雲水峡の散策コースなら、8歳と5歳を連れて苔むす森の空気を感じに行けそうだとわかったのは大きな収穫でした。まずは短いコースから、いつか家族で屋久島の森に立ってみたいと思います。